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空白と点り
2021. 3. 3 - 3.13
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photo by IMAKI Kenji
空白についてのメモ
窓に点ったあかりが気になって近づいた建物は、空き物件だった。外から見ると、大きな水場と窓以外は何もない。人通りの多い繁華街の中で、ぽっかりとあいた穴、もしくは抜けがらのような場所だと思った。取り扱っている不動産会社のwebを調べてみたら、貸物件として借主を募集していること、元が花屋だったことがわかった。花屋だった頃はどんな人が出入りをしていたのだろうか。春には春の花があって、冬には眠る草もいて、季節ごとに見られる花が、人が、この窓から見える景色が、きっと違うのだろうと、かつてそこにあった花屋としての様子を思い浮かべていた。もし借主があらわれた時に、この窓や、水場は残るのだろうか、などと考えていた。
私がその建物を見にいく時間帯はなぜか決まって夕暮れで、周囲は薄暗く、ぽつぽつと周りの建物の光が見え始める時間帯だった。朝や昼の、明るい時間を知らない。
そういえば、いつも夜通る道を明るいうちに通ると、見えてくるものが全然違っていてとても新鮮な気持ちになれる。当たり前だけれど、時間によって目に入ってくるものは違っている。夜はない、と思っていたものが昼にはあって、昼にはないものが夜にはある。
何もない、ということは、決して空虚なのではない。夜と昼の話みたいに、単に見えなくなっているだけなのかもしれない。もしくは、その場所に堆積した時間や今ある空気に満たされている状態なのかもしれない。
ぬけがらのような建物に点っていた光は、見えるもの/見えないもの、あるもの/ないものの間を手繰り寄せ、
静かにその場所にかつてあった出来事・風景や、今のがらんどうの時間、そしてこれからのことを照らしているように見えた。
(展覧会場のハンドアウトに掲載)
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