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あき地

2020.11.10 - 11.15

KUNST ARZT / 京都

平田 剛志 (美術批評家)

京都新聞

2020.11.14 (土) 掲載

空き地には何があったのだろうか。スクラップ&ビルドによる開発が進む都市では、空き地の過去は忘れ去られていく。

髙畑紗依展は誰もが見ていながら忘れていく空き地の記憶を喚起させる展示だ。

ギャラリーの扉を開けると、何もない空っぽな空間で驚く。だが、白い壁に近づくとカッティングシートで切り出した家具や住宅の情景が白い輪郭線で壁全面に朧げに見えてくる。これは、地図を見るように鑑賞者が壁の白い痕跡から風景を見出すドローイングなのだ。壁と線が同化して見えにくい展示だが、白線は一部を浮かせて貼っており、それが微かな目印になるだろう。

これまで髙畑は、山の稜線や建物の輪郭線などをフィルムや紙の上に黒や蛍光色の線でトレースし、細かく切り出して空間上に配置するインスタレーションや映像を発表してきた。

なぜ今展では見えにくい展示になっているのだろうか。それは本展のモチーフが「空き地」だからだ。消えた風景や日常の記憶を再び浮かび上がらせるために、白い輪郭線や半透明の素材が選ばれた。

作者の身近にあった空き地の行方を丁寧に観察・記録し、地図やメモ、版画へと結実させた本展は、空き地が増えてきた京都の風景にも重なって見えてくる。見えにくい線を探す鑑賞者は傍目には壁を見る奇妙な行為だが、少しずつ風景が現れてくる時間は散歩をしているような楽しさがある。極めて写真写りが悪い本展は、オンラインでの観賞には向かない。つかの間現れた展覧会の「空き地」は人々の眼に残るだろうか。

(KUNST ARZT == 三条通神宮道入ル 15日まで)

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